アメリカンスピリットの女

彼女は、「かっこいい女」だ。

身長が高く、肩が広い。首が長くて、大きな口でたばこを吸う。お気に入りはアメリカンスピリットメンソール。最近どうにか、タール数を1mmまで減らすことに成功した。

コーヒーを好み、大衆酒場を好む。金宮を水で割って飲むのが好きで、酔っ払ってもあまり人に甘えない。

いつも「しっかりしなくちゃ」と思っていて、弱音を人にこぼさない。
「もう5年くらい彼氏がいない。最後の彼氏はDVするヤツだったけど、私がいないと生きていけねぇんだなって思って、交通費なんて請求したことないけど、いつも彼んちに車で通ってた」

彼女の愛車はSUZUKIのラパン。異常に運転が上手くて、男性をいつもびっくりさせる。

「彼氏ができないのは、多分自分に見る目がないからだな〜〜」

姉御気質な彼女はある種の男性からとてもモテる。

「興味がない人には好かれる。私の好きな人は、私を好きにならない」

自分のことを好きにならない人が好き、というオンナは意外と多い。手に入れば恋は終わり、振り向かれるかどうかのギリギリのラインを好むひとびとは、相手が好き、というよりも恋愛をゲームとして楽しむような気質がある。
「笑いのツボが合わないヤツとは一緒にいれないよね。年末は『笑ってはいけない』を笑いながら見て、ケツを叩き合いたい。面白さは自分で作ってくもんじゃん」

そういって彼女はコロ助やらジャイアンやらのモノマネを始める。こんな性格なのに、彼女の職業は保育士だ。
「結婚はしたい。でも、おもろくないヤツとは一緒にいたくない。おもろいなってヤツはだいたい昼間きちんと働いてなかったりするし、結婚向き!って感じの公務員とか、ツッコミが甘すぎてゲロでちゃう」

結婚したいのに、焦るつもりもない。そんなアラサーは最近多い。

「本気でやばい時は、多分その時に焦るよ。今はまだ焦れないから、タイミングじゃないんだと思う」

あくまでマイペースに彼女はそう話す。
「周りに流されたくない。私は私でいたい。それが私の恋愛を阻害しても、私は私でいられない人とは一緒にいたくない。だから多分、私にはそこまで恋愛はマストじゃない。たまにセックスしたいな〜とは思うけどさ」

彼女が愛しているのは、トイストーリーとミニオンズと、アメカジとハイな音楽。

愛するものが多い人ほど、恋に依存しない。依存するような気持ちがないと、きっと結婚はしないのだろうけど。

恋に依存しない女は美しいし、でも愛されない時もある。

でもきっと彼女は、誰かに愛されなくても彼女でいることができるのだろう。

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